悪意さえないまま傷つけて

※バッドエンドです
久しぶりにフスベに帰ってきたワタルくんが恋人を連れて来る
タイトルお借りしました→お題bot

 あたしの知ってるワタルくんはポケモンが大好きで勇敢でちょっと怖いもの知らずで頼れるお兄ちゃん。でもそのせいで女っ気は全然なくて、だからフスベに帰ってくる度に世話好きの爺婆にお見合い写真を押し付けられそうになって毎回困った顔をしてる。ワタルくんはまだ彼女を作る気がないのに、みんな凝りもせず本当によく頑張ってる。そもそもあのワタルくんが誰かと付き合うなんて、絶対無理だと思うんだけど。

 だから、今日久しぶりに帰ってきたワタルくんの隣に女の人が並んでるのが不思議でたまらなかった。

 ああ、そっか。この辺りで怪我したトレーナーを保護してきたんだ。この前のお兄さんは腕が折れてて大変だったっけ。きっとあの女性もそうに違いない。綺麗な服を着て折れてしまいそうなヒールを履いててちっともトレーナーには見えないけど、そうに違いない。ワタルくんも彼女の事をただ紹介するだけで恋人とは言わないし、恋人のはずがない。
 そもそもあの人がワタルくんの恋人なんてあり得ない。ミニリュウの正しい抱き方も知らないし長老さまたちのちょっと訛りのきつい言葉も全然聞き取れてない。しかもコイキングにも驚くくらいポケモンを怖がって、モンスターボールの投げ方すら小さい子に教えられてる。そんなワタルくんと正反対な人がワタルくんの恋人なんて絶対にあり得ない。
 なのにワタルくんは澄ました顔の下でいつもの数倍にこにこ笑っていて、優しそうな瞳で彼女を見つめている。その目は従兄弟が長老さまにお嫁さんを紹介する時の目とそっくりだった。好きの気持ちが溢れている目が、彼女に向いていた。
 でもそれだってあたしの気のせいだ。ワタルくんは何も言わないもの。時々ワタルくんは貧弱なポケモンを保護してたから、きっとあの彼女もそれと一緒であまりにもか弱いから保護してるだけに決まってる。だってワタルくんにあんな女性、全然似合って――

「じゃあ誰ならおれに相応しいんだろう」
「ぇ、そんなの……」

 今あたし、どこまで声に出してたんだろう。はっとして口を手で覆う。ワタルくんはちょっと首を傾げてあたしの答えを待ってる。答えなくちゃ、と手のひらで隠した口を動かす。けれど声が出なくなる。誰の名前も思い浮かばない。ワタルくんがやれやれとため息を吐いた。

「もうやめよう。長老たちもきみも、おれの事となると理想を押し付けすぎだ。彼女は良い人だよ、きみともすぐに仲良くなれるさ」

 ワタルくんが笑う。あたしとタッツーの喧嘩を仲裁してくれた時もこんな顔をしていた。

「彼女はしばらく此処に居るから、困ってたら助けてやってくれないか。本当はおれがすべきなんだが、生憎ゆっくりしてられなくてな」

 頼むよ、そう言ってワタルくんが頭を下げた。けれど伏せた瞳はすぐにあたしの瞳に戻ってくる。違う、あたしの後ろの何かを見てきらりと輝いていた。視線を追うように振り返る。彼女がいた。控えめに手を上げて遠慮がちに手を振っている。あたしと目が合うと軽く頭を下げてワタルくんにしたように手を振った。

「頼んだよ、{{kanaName}}」

 ぽん、と肩をたたかれる。その薬指には指輪が嵌められていて、同じものをワタルくんの恋人も嵌めている。

「しかた、ないなぁ」

 返事をしたらワタルくんが嬉しそうに笑って、あたしを置いて迎えに来た彼女の方へ歩き出す。

 もしあの時『あたし』と答えていたら、ワタルくんはその指輪も彼女も捨ててくれたんだろうか。そんな事を考え、そんなワタルくんは嫌いだなあと何故だか無性に笑いたくなった。