夢主のベッドで思わぬものを見つけて期待するチリと、女の子同士の恋愛をよく分かってない夢主 ※チリ視点 (『#ベッドルームのワードパレット』2.セレナーデ)
ベッドの上でひとり、チリは眉をひそめていた。洗いたてのシーツは柔軟剤の良い香りがして、同じ香りが漂うパジャマも肌触りが良く着心地は最高だ。室温も適温に調節されていて文句のつけようがない。それでもチリは険しい顔をしていた。 「子供やないんやから、コレはないやろ……」 チリの視線は今着ているパジャマに向けられる。それはチリの恋人でこの家の主である{{kanaName}}が今日のお泊まりの為にと用意したものだった。余程気に入っているのか、{{kanaName}}はご機嫌な顔で「可愛いでしょ」笑っていた。確かに、たくさんのウパーがプリントされた生地は愛らしく、{{kanaName}}の着る柄違いのパピモッチ柄も可愛いかと問われたら否定はしない。 だが休日前に泊まりに来た恋人に着させるには場違いすぎる。特に今日こそ可愛い彼女のあられもない姿を拝見しようと意気込んでいたチリにとって、このパジャマはムード作りの敵だった。ムード以前に自身がその気になれるかも、かなり怪しい。 それならば手早く脱がせてしまえばいい。一度はそう考えたが、それはそれで情緒に欠けて面白くない。少しずつじゃれあって、焦らしながら脱がせて、そうして一糸まとわない身体でよがってほしい。出して終わりの男とは違うのだ、チリは過程も大事にしたかった。 「布団被って見えんようにしたらまぁ何とか…………ん?」 その時チリは脳内シュミレーションをより鮮明にするべくまくらを彼女に見立てて抱きしめていた。そして予行演習だと熱い視線をまくらへ向けた時、視界の隅にそれを見つけた。手の平ほどの紙切れだ。何やこれ、チリはまくらの下にあったそれを拾い上げ、真っ白の紙をひっくり返した。 「これって……、」 「遅くなってごめん、やっとパピモッチが寝て……あ、えっ? あっ! あー! わーーー!」 ケンタロスのとっしんの如く、寝室にやって来た{{kanaName}}がドタバタと駆け寄ってきてそれを奪い取った。 チリは思わず眉根を寄せる。彼女のひどく慌てた様子から、あれは{{kanaName}}が何かしらの目的で用意したものに間違いない。チリには一つ思い浮かんだ用途があったが、果たして{{kanaName}}がそんな事をするのだろうかと疑問が浮かぶ。ポピーですら子供っぽいと一蹴しかねないパジャマで喜ぶ彼女が、恋人の写真を眺めて自涜に励むとは想像したくても出来ない。 けれど{{kanaName}}は耳まで真っ赤にして恥ずかしがっていて、奪われた写真は大きく背中の開いたドレスを着たチリであり、もしかするともしかするのかもしれない。チリは期待を込めて{{kanaName}}の腕を引きベッドへと引きずり込む。 「顔真っ赤にして、この写真で{{kanaName}}は何しとったんかなあ?」 「いっ、いや別に、たまたま見てただけでっ」 「ほーん、たまたま…、ね」 「あっ、ちょっ、チリちゃ、ま、、待って!」 チリの横顔を捉えたその写真は全くチリの記憶にないものだった。いつぞやのパーティの際に{{kanaName}}がこっそり撮ったんだろうか。ミルク色で何だか美味しそうだね、と色気よりも食い気を優先した感想を言ってチリを随分困らせた{{kanaName}}が、この写真を。 チリは{{kanaName}}の背中に隠された写真を取り上げそこに写る自分をまじまじと眺めた。自分でも滅多に見ることのない背中、髪を結い上げて現れたうなじ、普段より濃い色のルージュを引いた唇は相槌でも打っているのか僅かに開き、目線はレンズではなく別の誰かを見上げている。見事な隠し撮りで、自涜にもってこいの写真だった。 「別に怒ったりせーへんから正直に言うてみ? チリちゃんは素直な自分が大好きやねんで?」 {{kanaName}}の視線が泳ぐ。おどおどと左右に揺れ、チリの眼差しから逃げるように下を向いた。けれどすぐにちらりと上目遣いの視線がチリを見つめる。 「笑わない……?」 「笑わへんよ」 にっこりとチリが微笑むと、{{kanaName}}が「本当に?」と念押するようにさらに訊ねた。それにも大きく頷くと、ようやく{{kanaName}}が重い口を開く。チリは期待を込めた瞳で恋人を見つめ、耳を傾けた。 「この時のチリちゃんが、すごく好きで……だから、その…、夢に出てきたらいいな、って、まくらの下に……」 言葉を紡ぐ度にどんどんと声が小さくなっていった。{{kanaName}}はの顔はオクタンも顔負けなほど真っ赤になっている。チリは静かに{{kanaName}}の言葉に相槌を打っていたが、告白は終わったとばかりに口を閉じた{{kanaName}}に小首を傾げた。 「まさか、そんだけ?」 「え?」 「他にやる事あるや…………いや、何もない、チリちゃんの心がちょっと汚れてたわ」 何の事だかさっぱり分からないといった顔がチリに答えを求めて潤んだ瞳を見せる。ああ、そうや、せやったわ、{{kanaName}}はこの関係を親友の延長線としか思ってないんやった。チリは首を振って息を吐いた。パピモッチ柄のパジャマがよく似合う彼女はまだ抑えられない衝動に駆られる恋を知らず、チリが腹の奥に抱く欲望も解っていない。期待して待ってるだけじゃあかんな、チリは初心な{{kanaName}}の顎を指を掛ける。 「今日の夢にはチリちゃん出てきたらええね」 {{kanaName}}が焦ってぎゅっと目を強く閉じる。そんな彼女に小さく笑って、チリは緊張で固くなった唇にそっと口付けした。