誕生日の夜、宅配便が届く
──ピンポーン。 インターホンが鳴る。こんな夜遅くに一体何だろう、モニターを確認すると目深にキャップを被った人物が映っている。顔はツバに隠れて見えないけれど、このキャップと着ているポロシャツは見覚えがあった。 はい、と返事をすると「ぺリッパー急便です」と予想通りの言葉が返ってくる。 今日何か届く予定はあったっけ。玄関に向かいながら最近買った物を思い返す。水やその他の食料はこの前届いたばかりだし、コスメはぺリッパー急便じゃなくてドードリオ便だ。そういえばナンジャモグッズを注文したっけ。でもあれは予約で発送はまだのはず。 結局品物の見当が付かないまま玄関に着いた。けれど見ればすぐに分かるだろう、チェーンを外してガチャリと鍵を開ける。 「はいはーい……って、ぅわあっ!」 玄関ドアを開けた瞬間、真っ赤なバラが視界を埋めつくした。 「{{kanaName}}さんですね、こちらお届けものです」 「え、あ…、はっ、はい」 ずいっ、と押し付けられた花束を受け取る。大きな花束だった。一体何本のバラを包んでいるんだろう。10や20なんて数じゃない。軽く2倍、いや3倍以上かも。抱えた両手に感じる重さにもびっくりする。 もちろんだけど私はこんな物を頼んだ覚えはない。でも、こんな事をする人物に心当たりがない訳でもない。 ──仕事が忙しくて今日は会えないって言ってたから贈ってくれたのかな。 後ろで一つに纏めた髪を揺らして深く頭を下げたチリちゃんを思い出す。ここ数週間忙しくて連日残業が続いて大変だと零していた。それでも今日は定時で帰って誕生日を祝いたいと言ってくれたけど、リーグの仕事はそんな我がままが通るほど甘くない。だから明日の休みはお疲れのチリちゃんを労わってまったりお家デートの予定だ。 「では失礼します」 宅配ドライバーさんがキャップのツバに手を掛け、俯いた頭をさらに下げる。そういえば今日のドライバーさんはいつもの人と違う。いつものお兄さんはもっと背が高くて筋肉質で声も低い。それに短い髪はキャップに収まっているしあんな深緑色じゃ……んん? 「もしかして……チリ、ちゃん?」 名前を呼んだ瞬間、頭を下げたままのドライバーさんの肩がびくりと跳ね、そのまま固まった。あれ? よく見たらドライバーさんの手に嵌めてるグローブ、黒で右の甲にだけ刺繍の入ったそれは誰がどう見ても四天王が身に付けるグローブに違いない。それにキャップとポロシャツはぺリッパー急便の制服に見えるけどスラックスにブーツ、おまけに腰から垂らした特徴的なサスペンダーに気付いてしまったらもう疑う余地はない。この人、チリちゃんだ! 「やっぱりチリちゃんだ、何してるの?」 「や、やって!」 チリちゃんがキャップを外し顔を上げる。その頬は赤く染まって、いつも威勢の良い眉も今は困ったように八の字に下がっている。左右に揺れる瞳には焦りもにじんで、やっと目が合っても普段の力強さは見る影もなかった。 「しゃーないやん、仕事何とか切り上げてこないに花束も用意したけど土壇場なって恥ずかしなってんから!」 ぎゅっと眉を上げ大きく口を開けて一気に捲し立てるチリちゃんに思わずぽかんとする。そんな理由で宅配ドライバーの振りをしてバラの花束を抱えてやって来たなんて、四天王ともあろう人が一体何をしてるんだ。思わずふふっと吹き出してしまった。 「あーもうっ! そうやって笑ってられんのも今のうちやからな、後で覚えときやぁ!」 ほら寒いねんからはよ入んで、そう言ってチリちゃんが私の背中を押して、「あっ」と何かを思い出す。 「誕生日おめでとさん」 ばたんと閉じたドアの内側で、優しく揺れた花束のバラの色を香りを美しさを、私はきっと忘れない。