そうは言ったけどきみからなら何だっていい

クリスマスで賑わうハッコウシティにチリちゃんと2人で買い物に行く

「それにするん?」

 年の瀬の賑わいを見せる今日この頃、チリちゃんとハッコウシティへ買い物にやって来ていた。チリちゃんはテーブルシティ内でいいと言ったんだけど、せっかく二人で出掛けるんだからとこっちを選んだ。
 ハッコウシティは伝統的な景色の並ぶテーブルシティよりも流行のモノやヒトが多く集まっている。だからハッコウシティにしか出店していないお店や限定品も多く、それもあってハッコウシティに来たかった。
 チリちゃんも最初こそ「ナンジャモの配信に映ると面倒やねん」と難色を示していたけれど、何度も何度もお願いすると「この貸しはご飯3回分やで」と冗談か本気か分からない交換条件で折れてくれた。
 そうして向かったハッコウシティのショッピングモールで、わたしは頭を抱えるコダックそっくりにうんうんと悩んでいた。

「いや、うーん、どうしようかな……」

 わたし達がいるのはとあるアクセサリーショップで、わたしはチリちゃんに呆れられながらネックレスを見つめていた。
 それはクリスマス限定品で、一目見て気に入ったネックレスだった。自分用のクリスマスプレゼントにぴったりだった。
 ただし値段だけは可愛くない。もちろん買えない金額ではない。でもわたしはまだチリちゃんへのクリスマスプレゼントを決め兼ねていて、今ここで自分用に奮発していいのか迷っていた。良いものを見つけた時に予算がないなんてことは、絶対に避けたい。だからこのネックレスは一旦保留にすべきだった。
 けれどこれはクリスマス限定品で数量限定品、店員さんも嘘か本当か残りは少ないと言う。おまけにこのお店はテーブルシティにはないし、オンラインショップ分は既に完売している。今日逃すと多分買えないんだろう。
 そんな訳でわたしは今、大きな決断を迫られていたのだ。

「何で悩んでるか知らんけど、一旦他の店見て考え直したらどうなん」
「えぇ…、でも……」
「ほな今すぐ決めれるんか」
「それは、無理……」
「自分なぁ……。ほら、行くで、このフロア一周する間によお考え」

 見るべきはこのフロアじゃない。ここはわたしの欲しいものしかない。そんな事をしたって時間の無駄だ。

「チリちゃんは何か見たいのないの?」
「今日はええわ、気の済むまで自分の買いもん付き合うたるって言うたしな」
「別にいいのに……」ら
 わたしのことを優先してくれるチリちゃんの男前っふりには惚れ惚れしちゃうけど、今日ばかりはもう少し我がままも言ってほしいところだ。チリちゃんに引っ張られながら恨めしく思う。
 結局強引にフロアを一周して分かったことは、チリちゃんはリングにはあまり興味がなくて、ネックレスもそこまで気に入るデザインはなく、ピアスも今ので満足している、ということだった。
 しぶしぶ他の店を回ったわたしはそれでも何かしら素敵だと思う品を見つけていたのに、チリちゃんはまるで関心がないらしく、わたしが話を振っても大した反応は返ってこなかった。ここで何かしら大きなリアクションがあればプレゼント候補も見つかってあのネックレスを買うかどうかが判断出来たのに、事はそう上手く運ばない。どうしよう、思わずため息が零れる。

「で、どうすんねん」

 フロア一周の旅を終え、エスカレーター乗り場でチリちゃんに問われる。買うなら今しかない。でもやっぱりチリちゃんのプレゼントを買う前に散財じみた事はしたくない。それに探せば似たようなデザインはどこかにあるかもしれないし、案外寝て起きたら買わなくて良かったと思うかもしれない。もう少し値段が低ければ、或いはもう少しわたしが無駄遣いを控えていれば……と恨めしい気持ちをぐっと堪えてチリちゃんに首を振った。

「今日はやめとく」
「他のは?」
「それも…、いいや。こんなに悩んだら本当に欲しいか分かんなくなっちゃったし」
「ふぅん。なに、自分がそれで納得してるならええねん。ところでチリちゃんお花摘みに行ってくるからちょっと待っててくれる?」

 荷物頼むわ、とポケモンフーズの入った袋を手渡される。ずしりと重いそれは、さっきまで「見るのに邪魔やろ」とわたしの分まで持っててくれていたのだ。長いこと持ってもらっていたし、このまま持っていてあげようかな。重くて痺れる腕を動かし袋を持ち直しながら考える。
 と、その時、なんとはなしに上へ向けた視線が違和感に気づく。天井からぶら下がる案内板にはトイレは左方向と書かれている。でもチリちゃんは反対の右へと歩いて行かなかっただろうか。チリちゃんったら間違えたのかな。でもトイレを探して迷うのはいつもわたしの方で、チリちゃんは必ず場所を分かっている。そんなチリちゃんが今日に限ってミスをするだろうか。

「……あっ!」

 わたしは慌ててチリちゃんを追い掛ける。彼女の向かった方向にはトイレの代わりにあのお店がある。わたしが悩みに悩んで結局買うのを諦めたあのネックレスのお店が。
 そういえば今日はやたらと話し掛けてきたけど思い返せばどれも「気に入ったん?」「そういうの好みやったっけ」「{{kanaName}}に似合いそうやなあ」とわたしに探りを入れる言葉ばかりだ。あのネックレスも優柔不断なわたしにイライラして何度もどうするか聞いてきたのだと思ってたけど、そうじゃないかもしれない。そうじゃないに決まってる。

「おわっ、と。そんな急いだら危ないで」

 重たい荷物を両手にフロアを急ぎ足で駆けていくと、戻ってくるチリちゃんを見つけた。目を合わすより先に彼女の手元を見る。何か持っていたらそれは間違いなく……

「あれ?」

 チリちゃんの両手はいつのものようにコートに突っ込まれていて、何も持っていない。でもネックレスなんて小さな袋に収まってしまうから鞄の中に隠したのかもしれない。鞄をチェックする。けれど肩から提げた鞄に変化は見られない。どうなってるんだろう。

「どないしたん、自分もトイレ行きたいんか。それならこのまま真っ直ぐ行って右な」
「えっ、あ…、うん」

 そうじゃないと言うこともできず、ポケモンフーズの袋をチリちゃんの差し出された両手に託して言われた通りに歩いていく。
 果たしてそこにはトイレがあり、わたしは頭を捻りながらトイレを済ませた。なんだ、案内板に書いてないだけでこっちにもトイレがあったんだ。チリちゃんはそれを知ってたんだ。
 どこか腑に落ちなかったけれど、彼女の行動にそれ以上は言及できない。わたしは来た道を間違えないようにゆっくりと帰った。
 でもエスカレーターの前にチリちゃんの姿はなかった。

「……え?」

 振り返る。わたしより先に戻ったはずのチリちゃんが後ろを歩いている。どうして、と混乱する頭が答えを出すより早くチリちゃんが目の前に立つ。

「{{kanaName}}、手出して」

 そう言ってチリちゃんが渡したのは知らない小さな紙袋。戸惑っていると「はよ受け取ったって」と急かされた。その勢いに流され受け取ってしまう、あのアクセサリーショップの紙袋を。

「ちょっと早いけど、今渡さんと自分でも買うてしまうやろ」

 チリちゃんと紙袋を交互に見比べる。うっすら微笑んでいたチリちゃんはわたしの呆然とする間抜け面に堪えきれなかったらしく、ふっと息を漏らしたかと思うと「そんなおもろい顔せんと、もっと喜んだ顔しいな」なはは、と声を出して笑う。
 でもわたしは笑えない。もちろん嬉しい気持ちが全くない訳じゃない、嬉しい気持ちも胸から溢れそうなくらい沢山ある。けれどチリちゃんの為に買うのを諦めたそれをプレゼントされるのは、ひどく複雑なのだ。思わずチリちゃんを睨んでしまう。

「そんな顔したらせっかくの可愛い顔が台無しやんか。それに、チリちゃんの気持ちにありがとうも言ってくれへんの?」

 普段はつり上がっている眉が八の字を描く。目尻の垂れた瞳のせいかいつもの勝気なイメージのせいか、しおらしく見えるチリちゃんにうっ、と罪悪感が募る。

「あ、ありがとう…、チリちゃん」

 仄かに色付いた唇が嬉しそうに弓形になる。それは頬を緩ませ、真紅の瞳を細め満面の笑みへと繋がって。そんな顔を見たら自分の八つ当たりじみた不満はちっぽけで馬鹿らしくなって、しかめた顔も緩んでゆく。そうしてわたしも不器用に笑顔を作ったらチリちゃんが満足げに頷いた。

「クリスマス、楽しみにしとくわ」

 こうなれば何がなんでもその期待に応えなくちゃ。わたしはその期待にプレッシャーを感じつつも「任せてよ」重たいポケモンフーズを抱えるその手にぎゅっと腕を絡めた。