メイン26以降、ウォロを探す ※ショウ(主人公)が出てきます タイトルはお題bot(@odai_bot00)よりお借りしました
ウォロが居なくなった。 居なくなったは言い過ぎなのかもしれない。けれどここ数週間、ベースキャンプ近くで荷を解いて商売をする姿はおろかコトブキムラに寄った様子もない。たまにふらりと私の宿舎を訪れ食事をしたり勝手に布団を使っていた彼の痕跡が、今はもう遠い昔の事となっている。 誰か他に手頃な人間を見付けてしまったんだろうか。一人では食べ切れない量の食事に溜め息を吐く。そんな私を相棒のハピナスが心配そうに見上げ、栄養満点のタマゴを差し出してきた。優しい彼女の気遣いにありがとうと受け取ったのも束の間、次の瞬間には溜め息がまた零れ落ちる。 こんな調子ではいけない。明日、彼の事を知っていそうな人に聞いてみよう。本部前にイチョウ商会が店を開いていたらリーダーのギンナンさんに、もし居なければウォロに気に入られていたショウちゃんに声を掛けてみよう。私はまた出て来そうになる溜め息を呑み込むと「大丈夫だよ」心配そうな顔を浮かべるハピナスへ笑顔を作った。 「と、遠くへ行く、って」 本部から出てくるショウちゃんを捕まえてウォロの事を尋ねたら、何故か眉を八の字に下げ視線を逸らされてしまった。その唯ならぬ様子に不安が押し寄せる。ヒスイの土地はまだまだ危険に満ち溢れている。相棒のポケモンがいても安全とは程遠い。まさか、ウォロも。 「そんな事はない、と、思います。でも、わたしも、今どこに居るか分からなくて」 死んではないようだった。けれどウォロの居場所が分かった訳ではない。ウォロと最後に会った場所を尋ねると、ショウちゃんは小さな声で「シンオウ神殿」と答えてくれた。 行ってみよう、そう決心すると何か言いたげなショウちゃんにお礼を告げて今日の夕飯を一緒に食べる約束をした。 ウォロを探して数日が経った。 相変わらず私の家にもムラにも立ち寄らず、噂話すら入ってこない。本当に何処へ行ってしまったんだろう。もしや遠くとはヒスイから出るという事なんだろうか。それならせめて一言挨拶をくれても良かったのに。 何度目か分からない溜め息を吐いていると突然、ハピナスが走り出す。誰か怪我人でも見付けたのかもしれない。私は慌ててその後を追った。 ハピナスは迷う事なく山肌に出来た小さな横穴へと入っていく。中にいるのが手負いのポケモンだったらどうしよう、少し不安になったけれどハピナスを一人には出来ない。ねばりだまを握り締めて中へと足を踏み入れる。 「……! ウォロさん!」 少し入ったその先で見覚えのある紺碧色がぐったりと岩壁に寄りかかっていた。何があったのか、いつもならその白に輝く前掛けも薄汚れ、帽子のつばで隠した顔も酷い色をしている。 ハピナスを追い越しウォロへと駆け寄る。けれど触れようとしたその瞬間、影から大きな何かが飛び出して私の首へ大きなヒレと鋭い爪のついた腕を向けた。少しでも動けばその爪は私の首を掻くだろう。怖くないと言えば嘘になる。でも、今は。 「手当てするだけだから」 目の前のウォロの息は荒く、こちらに顔を上げる気力も残っていないようで。このまま放っておく訳にはいかない。ハピナスもそれに気付いて私を威嚇する群青色のポケモンを説得するように鳴いた。睨み付ける山吹色の険しい瞳が僅かに揺れた。 私は一歩前へと足を踏み出した。鎌のような腕は下げられ、私の体はウォロに近付く事を許される。ほっと安堵の息を零しつつ、急いでウォロの看病に取り掛かった。 *** ウォロが目を覚ましたのは賑やかで楽しげな声が聞こえたからだった。薄暗い洞窟の中、すぐ傍でパチパチと焚き火の爆ぜる音がする。 ゆっくりと体を起こすといつの間にか寝袋が敷かれていた事に気が付く。しかし彼にそんな余裕は少しもなかった。一体誰が。まだぼんやりとはっきりしない頭で周囲を見渡す。 「あっ、まだ寝ててください」 そこに居たのは{{kanaName}}、何かとウォロの世話を焼きたがる製造隊の女性だった。ポケモンも持たずに材料収集に出掛けていた彼女は行く先でウォロに出会うといつもキズぐすりやバリバリだまを買っていくお得意さまだ。 その彼女はある時ウォロの携帯食糧ばかりの食事に眉を顰め彼女の宿舎に招いて食事を振る舞うようになり、それ以来その好意を有効活用しようとつい最近まではムラへ寄る度に少々強引に彼女の食卓へ上がり込んでいた。 そんな彼女が何故ここに。ウォロを横に寝かせようとする{{kanaName}}の腕を「平気です」とやんわり振り払って起き上がる。{{kanaName}}は困ったような笑顔を浮かべて手を引いた。 「ポケモンの毒が回ってて、それで熱も出ていたようです。出来る処置はしてみましたけど、体の痺れとか何か具合の悪い所とか、ありませんか」 心配そうにウォロを見つめる{{kanaName}}に、ウォロは首を振る。倦怠感は残っているが毒の影響はもう感じられない。{{kanaName}}の適切な処置に反射的に礼の言葉が喉元までせり上がり、しかし声になる前にごくりと飲み込む。 ウォロには目の前の女性が事の顛末を何処まで知っていて、何が目的で此処にいるのか分からない。だから油断出来ない。 しかし{{kanaName}}は強ばっていた頬を緩めるだけだった。 彼女の傍には見張りの為にボールから出したガブリアスが腰を下ろし主人であるウォロをじっと見つめている。フカマルの頃に一度だけ{{kanaName}}に見せた事があるとは言え、主人の傍を離れて彼女に寄り添うガブリアスに良い気はしない。ウォロはボールを掴むとガブリアスを仕舞った。 「ウォロさんを助けたいって言ったら色々手伝ってくれたんですよ、その子。ウォロさん想いの良い子ですね」 ウォロは手の中に収まったボールに視線を落とす。道具のように扱っていたジブンに懐くなんて、ひどく滑稽だ。 それは{{kanaName}}にも言えた。ウォロが出会った頃はムックルにすら怯えポケモンを捕まえるなんて絶対に出来ないと震えていた癖に、少しウォロが唆してトゲピーを見せてボールを与えたらピンプクを捕まえてきた。 それからは調査隊でも何でもない只の商人であるウォロにポケモンの事をしつこく尋ね、ピンプクを可愛がり、ウォロへも熱の篭った好意を向けるようになった。ウォロが何を考えどんな意図で彼女に接しているかを考えもせず、ただひたすら純粋に、眩しくて目を逸らしたくなる程真っ直ぐに。 「……ジブンは次にヒスイに船が来たら暫く此処を離れます。アナタはどうしますか」 思考とは関係なく言葉が零れていた。ウォロは自分自身の声に驚き、直ぐに否定の言葉を紡ぐがそれよりも早く{{kanaName}}が返事をする。 「行きます」 けれど{{kanaName}}もまた自分の言葉に驚いていた。理性の自制が働くより速く動いた心の底からのそれに、{{kanaName}}が照れて頬を赤く染めながら笑う。 「だってウォロさん、私がいないとちゃんとご飯食べないんですもん」 「そんな事はありませんよ。ですがそうですね、{{kanaName}}さんが来て下さるなら腹の心配はなさそうで安心です」 いつもして見せたようにお手本のような笑顔を作れば{{kanaName}}も頬を緩めた。ウォロはポケモンボールをポーチへ片付け、{{kanaName}}の敷いてくれた寝袋へ体を倒す。 「まだ本調子ではないようで、もう少し休ませて頂きますね。火の番、お願いします」 視界の端に{{kanaName}}の頷く姿が覗く。任せてくださいと張り切る姿に少しだけ呆れながら目を閉じる。 久しく心に訪れなかった平穏がウォロを優しく包んだ。