ダイゴのポケモンの写真が必要になって夢主が撮ることになった話 ※「隣はあなた」の前日譚っぽい話ですが、独立して読めます。
石以外何もないダイゴさんの家に、いかにも高価そうなカメラがあった。タブレットの中にはそのカメラで撮ったらしい写真が何枚もあって、新たな趣味にカメラを増やそうとしているのだろうか。 石を集め、魅力を語り、時には熱く語るだけでもダイゴさんの石への情熱はとても強く感じられたけど、なるほど、いよいよ石の表現にも興味を持ったんだ。わたしは何の変哲もない石の写真を眺めながら「SNSに載せたりするの?」と尋ねた。 「ああ、いや、リーグから手持ちのポケモン達の写真が欲しいと言われてね」 それで試しに石の写真を撮ってみたんだ。そう言ったダイゴさんはカメラを撫で、「でも」眉間にしわを寄せてタブレットへ視線を落とす。 白と黒の層が特徴的な石の写真は、とても言いづらいのだけどお世辞にも上手に撮れたとは言えない。あのダイゴさんでも苦手な事があるんだ、と意外な一面の発見に驚いて、同時に折角のカメラが勿体ないとも思う。 そんなわたしの考えは顔に出てしまったようで、ダイゴさんが困ったように眉を八の字に下げながら「写真、{{kanaName}}にお願いしてもいいかな」と、ねだるように指を絡められた。 「わたしもそんなに上手じゃないよ」 「でもきみ、よく写真を撮ってるだろう?」 撮ると言ったって、料理や手持ちの子達をポケナビのカメラで撮るだけで、趣味と呼べるほどじゃない。ダイゴさんよりはマシかもしれないけど、その差はどんぐりの背比べでしかない。そもそも、 「でもこんなちゃんとしたカメラは触った事もないよ」 それなのに、ダイゴさんは既に自分で撮るのを諦めて、わたしに押し付けようとしている。そんな大層な物は撮れない、期待されても困るよ、と丁重に断ってみるけれど、数分後、カメラを構えていたのはわたしだった。 押し付けられたカメラを渋々構え、まずは試しにダイゴさんも撮っていた石を撮ってみる。最低限の知識──逆光に気を付けて、影にも注意して、パシャリ、シャッターを切った。 わたしの写真も平凡極まりない。ダイゴさんだってこれくらいなら撮れるだろう。 それでも、「へぇ……」とダイゴさんが感心した声を零すから、胸がムズムズしてくる。 「ほら、ボクよりきみの方が適任だね」 頼るのは、いつもわたしの方だった。ダイゴさんは大体の事はそつなくこなすから、わたしが手伝う場面はあまりない。 もしかして、これはチャンスなのかも。わたしが、ダイゴさんの役に立てる、数少ないチャンスかもしれない。 「……わかった」 さっきまでの抵抗はどこへやら、チャンスだと思ったら案外あっさりと腹を括れてしまった。 そうと決まればどんな写真が必要なのかちゃんと聞いておかないと。ダイゴさんの話によると、リーグの広報誌に載せる写真が必要で、リーグ専属カメラマンに頼まないのは、今回の企画が手持ち自慢だからだそう。とびきりの一枚を各自で用意しろ、ということらしい。 いやいや、無茶振りが過ぎる。素人がそう簡単に狙った写真を撮れる訳がない。第一、ダイゴさんにどんな写真を撮りたいのと聞いても「そうだな……」と考え込んでいる。果たして素人がとびきりの写真なんて撮れるんだろうか。 「かっこいい瞬間ならバトルしてる時が分かりやすいと思うけど」 「それは流石に難しいよ」 「だったら連射すればいいんじゃないかな」 「それはそうだけど……」 さっきのやる気は何処へ消えてしまったんだろう、撮れるビジョンが全く思い描けない。やっぱり無理かもしれない。初心者にはハードすぎる。 「まあ、まずは練習に何枚か取ってみたらどうかな。意外と良い一枚が撮れるかもしれないよ」 とはいえ撮ると言ったのは自分だから何とかするしかない。ダイゴさんの提案に、二人で外へと出る。ボールからメタグロス達を出してもらったら、パシャリ、試しに一枚。撮れたのは、カメラに興味津々の目がこちらを向いた、特に何の変哲もない写真だった。 それから続けて数枚撮ってみる。風に舞う葉っぱに興味津々なボスゴドラの横顔や、羽繕いに熱心なエアームドが首をぐるんと背中に回した瞬間が撮れて、それを嬉しそうに見つめるダイゴさんも写っていた。 例えば今からとびきり丁寧に全身を磨いて、よく晴れた瞬間を狙って写真を撮れば、その鋼鉄の身体を存分に格好良く撮れるのかもしれない。もしくは自慢の技を繰り出す瞬間を連射すれば一枚くらいは迫力満点で見栄えの良い写真が撮れそうだ。 でも、この子達が一番輝いてる瞬間ってそんなのじゃなくて、もっとこう、根本的な瞬間なんじゃないだろうか。 ちらり、ダイゴさんに目を向ける。遊んで貰えると思ったユレイドル達がわらわらとダイゴさんに近寄って、裾を引っ張ったり、つついたり、大きく尻尾を振ったりしている。ダイゴさんも困った顔をしながらも、口元は緩んでいる。 (あっ、今だ) 構えていたカメラで写真を撮る。確認すると、みんなが楽しそうに笑った写真が撮れていた。そこに自分が写っていないのはちょぴり寂しいけれど、今日一番の、悪くない一枚だった。 「ねえダイゴさん、写真っていつまでに?」 「締切は2週間ほど先だったかな」 「じゃあそれまでちょっと練習してみる」 「いや、それならボクが自分で何とかするよ」 「ううん、折角だし、良い写真撮ってあげたいから」 「そうかい? じゃあ{{kanaName}}に任せようかな」 少し申し訳なさそうに、けれど信頼の眼差しを湛えて、ダイゴさんが微笑む。その瞬間もカメラに収める。今までなら一瞬で消えてしまうその表情が切り取られ、記録される。 いいな、これ。そう思ったらどんどん楽しくなってきて、何でも撮れそうな気がしていた。