ダイゴが寝坊する話

ダイゴがweb会議をする話」の続き(同設定)
※ダイゴの部下なモブ視点(モブの性別決めてません)

 そんな事があるだろうか――目の前のディスプレイに困惑しながら画面上の時計を見る。会議開始5分前、時間を間違えたのかと焦ったがそんな事はない。あと5分で会議は始まる。
 けれどディスプレイに見える人影は何度数えても1足りない。しかもその1ってのがあの――
《今日の会議って日程変更されてないよな?》
 そんな事はないだろうが念の為同僚に連絡してみたら《そんな事ない》と3秒も待たずに返ってきた。って事はあの誰より早く準備して15分前には澄ました顔で全員揃うのを待つ男――我らがチャンピオン様が時間を間違えている、のか?
 離席ですらない、接続すらしてないツワブキダイゴの事を考える。いやいや、それはないな。きっと何か緊急事態でも発生したんだろう。あの人はチャンピオン様で、何かと忙しいらしいし。
 なんて考えてたら会議開始まであと2分に迫り、いよいよツワブキダイゴも遅刻するのかとワクワク…ではなく心配してたら、
「皆そろっているね、始めよう」
 残念、やって来てしまった。遅れたら何て言うのかちょっと楽しみにしていたからつまらない。
 時間ギリギリだった事を何とも思ってなさそうな顔に視線を向ける。謝る理由も必要も全くないが何か一言あってもいいんじゃないか、そんな気持ちを視線に乗せて。
 薄い青の瞳は氷のように冷ややかで、容姿は良い癖に仕事中は全然笑わない。そんなだから正直とっつきにくい。それでも人気なんだから人生ってのは少し不公平だと思う。
 でも顔が良くていつも身綺麗にしていたらそれだけで好感度が上がるのは自然の摂理だと受け止めるしかない。例えば瞳の色と同じ髪もいつも小綺麗に整えられて……ん?
 手元の資料を確認するフリをして俯く。もちろん資料なんて存在せず、代わりにポケナビの画面を凝視していた。そこに映るのは同僚とのチャットで、今届いたメッセージに高速で返事する。
《髪見た?》
《見た。チャンプ絶対寝坊したよな?》
 ツワブキダイゴの話す声に頷くようにしてもう一度確認する。うん、見間違いじゃない、寝癖のついた髪がぴょこんと跳ねている。
 いやいや、まてまて、そのまま会議を進めようとするな。これが愛想良い後輩で軽く指摘出来るような相手なら、何の気兼ねもなく寝癖の事を伝えて直して来いって言ってやれる。
 でも相手はあのツワブキダイゴだ。無理だ。不可能だ。そんな事したらどうなるか分かったもんじゃない。
 だけどそんな可愛らしい寝癖を無視して真顔を保つのも、無理だ。
 こうなったら腿でもつねって無理やり乗り切るしかない。そう覚悟を決めた時だ。
「――――ッ!」
 けたたましい鳴き声が響く。これは、スバメだろうか。
 画面の中に映る皆も同じように驚き、特にびっくりしていたのはなんと、ツワブキダイゴだ。
「……すまない、少し待っててくれ」
 ツワブキダイゴが立ち上がり、画面から消える。足音も遠ざかり、でもすぐに戻ってきて、テーブルにちょこんとマリルのぬいぐるみを置いた。
 前に彼女らしき人物が離席中のツワブキダイゴの代わりに置いたマリル。何がどうしてそうなったのか、今ではすっかり馴染みの顔だ。
 きっと彼女に言われたんだろうな、離席中は必ず置け、って。そしてそれを律儀に守っているのかあの男は。仕事中は一切私情を挟まないって顔をした、あの男が。
 ドアを開ける音がして、スバメの叫び声は止まった。でも少し待ってもツワブキダイゴは戻って来ない。おいおい、一体何をしてるんだ。早く戻ってきてとっとと会議を終わらせてほしい。
 バタン、ドアの開く音がした。そうそう、さっさと帰って――
「スバッ」
 画面にスバメが現れた。
 スバメはカメラを覗き込んで画面を見つめ、もう一度カメラを見つめると何かを訴えるように騒ぎ始める。
 ぎゃあぎゃあと叫ぶ声はついさっき聞こえた声と同じで、つまりツワブキダイゴはコイツをどうにかする為に離席した筈だ。なのにどうしてスバメがここに来てツワブキダイゴは戻って来ないんだ?
「スバ、ズババ、スバスバッ!」
 スバメは相変わらず叫んでいる。ただし、いたずらに騒いでいる訳ではなく何かを伝えようとしている様にも見える。でもこれを見てる誰もスバメの言葉は分からない。
 何も伝わってないと気付いたスバメが大きくため息をつく。そしてキョロキョロと辺りを見渡し、スバメがデスクに上った拍子に転がったマリルのぬいぐるみに目を付けた。
スバメは器用にクチバシを使ってマリルを起こすと、その頭を啄み始めた。
 でも、それで一体何を伝えたいんだ。
「羽、繕い……?」
「スバッ!」
 会議の参加者の一人が声を出した。スバメが正解だと言わんばかりに声を上げる。
 なるほど、羽繕いね。で、それを伝えてどうしたいのか。そもそもあのツワブキダイゴがスバメも持ってるなんて、随分イメージと違う事をしてくれる。はがねポケモンや化石ポケモン以外も育てるんだな。ごつくて固いポケモンにしか興味がないのかと――
「あっ、寝ぐせ!」
 突然一人が大声を上げた。
「ダイゴさん、今、寝ぐせ直してるんじゃ」
 バタン、もう一度ドアの開く音がした。皆が思わず口を塞ぐ。小さく足音が響き、
「申し訳ない、待たせたね。ほら、きみは早く{{kanaName}}の所に戻って」
 ワブキダイゴが苦笑まじりにスバメを抱きかかえて床へ下ろした。
 なんだ、あのスバメは彼女のポケモンなのか。守られたイメージに安堵を感じつつ、ちょっとつまらなさも感じて気分が下がる。
けれどそんな事で面白い収穫があったのを聞き逃しはしない。
 なるほど、『{{kanaName}}』……ねぇ。
 寝起きのツワブキダイゴは髪に寝ぐせを付けるだけに留まらず、普段なら絶対に漏らしもしない彼女の名前まで口走ってしまうのか。いつもめちゃくちゃに澄まして完璧ぶってるお坊ちゃんを見せつけられているから、こういう少し抜けた姿を見てしまうと、何というか、どうにも……
《あの人がちょっと可愛く見えてきた》
 メッセージが届く。同僚だ。バレないように返事を送る。
《同感。今度昼食誘われたら{{kanaName}}さんの事聞いてみたい。絶対面白そう》
 メッセージを送信して顔を上げる。
 自分の失言に気付いたツワブキダイゴが誤魔化すように咳払いをして「始めるよ」部下を黙らせるようにカメラを睨んでいた。